2017年7月24日月曜日

絵本を読む −リトルターン−

 梅雨あけが発表され、本格的な夏がやってきましたね。暑い日々が続いていますが、体調を崩されたりはしていないでしょうか。

さて、先日リワークで、物語療法というプログラムに取り組みました。一人一人が描いた絵をつなぎあわせて、絵本をつくるものです。出来上がった絵本を紹介していただいた際の、メンバーの皆様の笑顔がとても印象的でした。

なかなか、今回のように絵本を作るという体験は珍しいものかも知れません。しかし、絵本を読んだことがあるという方は多いのではないでしょうか。そこで、今回は一冊の絵本を紹介するとともに、絵本の魅力についてお伝えできればと思います。
 
ご紹介する のは「リトル ターン」という絵本です。
リトルターン(コアジサシ)という鳥は、アクロバットな飛行が特徴的で、生涯の大半を空中で過ごします。そんなリトルターンの一羽が直面した、内面との戦いについての物語です。

(あらすじ)
ある日、リトルターンは突然飛べなくなってしまいます。「飛ぶ」という自分の中の大きな存在を失い、生活の全てが劇的に変わってしまうのです。自分が鳥である意味をも見失いそうにもなります。そんな中、リトルターンは何を感じ、思い、そしてどのように失った大事なものを取り戻していくのでしょうか。

 私たちも日常のなかで、何か大事なものを失う体験をすることがあります。これを喪失体験といいます。そんなときリトルターンのように、激しい悲しみや不安におそわれること、自分自身の存在する意味について揺らぐことがあるかも知れません。そんな中で、どうやって失ったことを受け入れ、その現実と生きていくことができるのでしょうか。もしかしたら、物語の中のリトルターンの生き方が一つのヒントになるかも知れません。

リトルターンを応援したくなったり、ときには感情移入できなかったり、受け取り方は読む人によって違うでしょう。絵本は文章が少ない分、読み手の想像力がふくらみます。自分や他者に重ね合わせることも、新しい考えだと学ぶことも、なんでも許されます。すなわち物語を自由に受け取ることができるのです。これは絵本の魅力のひとつでしょう。

皆様が、絵本から受け取る物語はどのようなものでしょうか。今回は「リトルターン」を紹介しましたが、素敵な絵本がたくさんあります。ぜひ、大人になった今だからこそ、絵本を手にとってみてはいかがでしょうか。


「リトルターン」ブルック・ニューマン作 五木寛之訳 集英社

2017年7月14日金曜日

「プレッシャーにどう向き合うか」


 そろそろ梅雨が明け、夏本番を迎える時期になりました。
 8月に入ると世界陸上、夏の高校野球、サッカーW杯最終予選などスポーツの大きなイベントが続きます。選手たちは大舞台でのプレッシャーとどう向き合うのでしょうか。プレッシャーに対処する方法はいろいろ考えられますが、心理学の視点からそのうちのいくつかを紹介します。

1、プレッシャーに襲われた時には、「お、来た来た。どうぞいらっしゃい」という構えで。
 プレッシャーは何事かを真剣にやろうとすれば、感じるほうがむしろ当たり前といえます。ですから、敵視しなくて良いと考えるのです。また最高のパフォーマンスが発揮されるのは、完全にリラックスした状態ではなく、ほどよいストレスがかかった時とも言われます(ヤーキーズ・ドッドソンの法則)。
 メジャーリーグのイチロー選手は安打記録のプレッシャーの渦中にいた時を振り返ってこう述べました。
「やっている最中にプレッシャーから解き放たれることは不可能です。そこから抜け出す方法はない」「でもそう思えたことは大きいですよ。あるかもしれないと思っているのと、ないんだと割り切っているのとでは、プレッシャーに対する向き合い方はまったく違ってきますからね」
 大事な場面でのプレッシャー、それは異常ではなくむしろ正常な証拠ともいえるでしょう。「プレッシャーは友だち、怖くないよ!」(「キャプテン翼」の似たセリフ、知ってますか?)

2、「前後裁断」
 過去と未来は切り離して、今に集中するということです。
「済んでしまったことをいつまでも追いかけてはいけない。まだ来ないことに想いを馳せてはならない。今ここになすべきことを熱心に行いなさい」(青山俊童:曹洞宗尼僧)
 元阪神タイガースの下柳剛投手はこの言葉を胸に、自身のグラブには「前後裁断」と刺繍していたそうです。自分に今できること、自分が今やるべきことは何か、そこに焦点を当てるということでしょうか。

3、“Motion causes emotion”
 テニスのメンタルコーチ、ジム・レーヤーの言葉です。“emotion 感情”をコントロールするには、“motion 動作”をコントロールせよということです。感情をコントロールするより、運動をコントロールするほうがやりやすいと言われますが、それをさらに進めた考え方でしょう。
Ⅰ.胸を張り、前を向け(姿勢・歩き方):誰しも、好調時は胸を張ってさっそうと歩きます。不調時は下を見てとぼとぼと歩くものです。
Ⅱ.笑顔を作ってみる(笑顔):好調時は表情が明るくなるものです。
Ⅲ.ゆっくりと腹式呼吸で(呼吸):リラックスしているときは呼吸が深くゆっくりしています。
動作(筋肉の運動)を変えることで、精神状態も変えようということですね。

(以上ここでは3つ挙げるにとどめますが、他にも自己暗示、ルーティーンなど様々な視点からの方法が提案されています)

 リワークで復職に向けた取り組みを続けている方々にも、今後大きなプレッシャーに直面する場面が訪れるかもしません。スポーツの世界からのヒントが役立ちそうだと思いませんか。
 選手たちの活躍と同時に、復職を目指す皆さんの順調な復職とその後の活躍を願っています。

参考図書:
『本番に強くなる:メンタルコーチが教えるプレッシャー克服法』白石豊 ちくま文庫 『イチロー262のメッセージ』ぴあ